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トイレからエネルギーを!

 前回、日本トイレ研究所の皆様のトイレ掃除ボランティアに同行させていただきました。そのときの経験と、わたしなりの考えを書きました。まだ、現実にできるほどのことは、できていないけれど。少しずつ、実現できるように動いていこうと思います。この報告は東北大学農学研究科の震災復興支援プロジェクトHPにも掲載しました。

トイレからエネルギーを!〜災害時に頼れるトイレをつくる〜


1. 被災地のトイレ事情
1.1 避難所のトイレ事情
1.1.1 水を使えた避難所
 東日本大震災の後、水が止まり、電気がとまり、ガスも止まり。ライフラインが止まったと同時に、人が生きている限りに行う、排泄行為をするトイレも水が使えないことで利用できなくなってしまった。下水処理場は津波で壊滅状態になった。バキュームカーも流されてしまった。
 避難所では、電気がないために汚物処理もできず、汲取が十分にできない中で汚物があふれるのを防ぐように水を飲むのを制限した避難所もあったほどだ。
 2011年4月30日、気仙沼の避難所3カ所(O中学校、K中学校、Hセンター)のトイレを見て来た。避難所では、水を利用できたか、できないかで、ずいぶんトイレ事情が異なっていた。
 O中学校では、幸い、建設会社の生コン車を利用し、近くの川から水を汲み取り、タンクに水を溜め、それをバケツに汲んで流し水として利用し、通常の水洗トイレを使用していた。トイレの数は、中学校にある5カ所のトイレで、男小便用16, 大便用10、女洋式2, 和式13という数であった。避難者は、震災直後は約600人であり、現在は約250人であるが、トイレに行列ができて困ることにはならなかったそうだ。仮設トイレも6機が送られて来たが、使用しなかったそうである。 
 今回、問題だったのは、避難所のトイレが、和式しかなく、お年寄りの利用が非常に困難であったという点である。O中学校だけでなく、2011年5月17日毎日新聞の記事によれば、岩手県釜石では、避難所の和式トイレが使えず自宅に戻っているお年寄りもいることが報じられている。
 さて、O中学校のトイレの衛生状態は、避難者の当番制で毎日そうじが行われており、非常にきれいに保たれていた。
 水で流された汚物類は、学校の蒸発散装置に貯められ、学外への排水をしないように努力されていた。しかし、それでも容量を超えそうになったため、汲取を一回して、難を逃れたとのことである。

1.1.2 水を使えない避難所
 続いて、K中学校では水がまだ止まっており、仮設トイレを利用していた。
 避難者は、現在のところ約200人である。仮設トイレは、大きく分けて2カ所にあり、避難民用の13カ所と、中学生用の4カ所があった。避難民用の13カ所のうち、一カ所は兵庫県提供の災害用トイレであり、残りは仮設トイレになっている。中学生用の仮設トイレは、すべて洋式タイプであったが、その他は和式タイプで、兵庫県提供の災害用トイレのみ、洋式用トイレの形をしている。
 こちらのトイレは、どこもかなり汚れていた。やはり、水がないので、仮設トイレの掃除もしにくいのであろう。水がなくてもきれいに使えるトイレの必要性を感じた。また、仮設トイレの下のタンクが小さく、浅いために、すぐにいっぱいになってしまうことも問題だと感じた。

1.1.3 ボランティアがあふれている避難所
 Hセンターは、小さな建物で、50人程度が避難している。水はでていない。また、多数のボランティアのメンバーが集まっており、非常に狭いところが雑然としていた。
 屋内トイレは、これも支援物資の物置として使用されていた。避難者は、生ゴミやトイレの臭いに悩みを抱えていた。本センターでは仮設トイレ4つに、災害用トイレが1つであったが、ボランティアも多くきているため、トイレの供給が足りず、新たに2つの仮設トイレを増設していた。
 仮設トイレのすべてが和式トイレであり、お年寄りが多いために、洋式トイレ型の仮設トイレを要望していた。

1.2 避難所以外のトイレ問題と諸事情
 現在、O中学校グランドでは、仮設住宅153世帯分が建設中である。仮設住宅の建設には、150人の作業員が参加している。作業場では、建設会社が仮設トイレを持って来ている。これらの仮設トイレは、すぐにいっぱいになるので、一週間に2回汲取にきてもらっているそうである。
 建設会社の人たちは、4月23日から工事を始めて3週間で終わらせるという、非常に短い工期の建設が必要なため、厳しい労働を要求されている。まず、地元の職人がいないため、新潟、秋田、山形から作業員を集めている。また、大工がいないため、10人ほど東京からも呼び寄せている。被災地周辺は旅館も被害にあって使用できないため、車で2時間ほど離れた一関の厳美渓の宿から、毎朝5時に出発して朝7時から作業を開始しているそうである。寝る場所も旅館の大座敷をなんとか借り、避難所さながら、作業員は雑魚寝しているそうだ。旅館では、作業員すべてに与える食料を十分に確保できないらしい。カレーライスにしたら、ごはんを通常の2倍消費し、米がなくなる有様。建設会社から米を支給したとのことである。一時ニュースで流れていた仮設住宅の材料不足(合板等)は、不足は、輸入により解消されている。ところが、ユニットバスを工事する職人、大工といった職人が足りないと嘆いていた。仮設住宅のトイレ関連だが、置き型の浄化槽で排水処理するらしい。しかし、浄化槽そのものの在庫が少なく、なかなか手に入らないとのことである。現場監督さんの話では、このような過酷な労働条件は続ける事が難しいとしている。とにかく、こういった状況の中での仕事は、プロの建設会社の人にとっても初めてのことで、非常に大変だということを教えていただいた。
 また、現場監督さんの話では、今後、被災地の人たちの仕事がどうなるのか?そのあたりを非常に心配していた。仮設住宅に入れたとしても仕事がない。そのため、光熱費をどうやって払うか、食費をどうするか?と自立した生活を行う事は困難であるだろうと。現場監督さんは被災地の人の思いを代弁してくれた。
 この他、日本赤十字からのボランティアに来ている人によれば、がれき撤去等の作業をしてくれるボランティアの人々のトイレの場所がないことも問題だそうだ。特に、女性ボランティアは、作業現場にトイレがなく、その対応に困っているとの事である。

2. 仮設トイレの汲取り事情
 人数(300人)と仮設トイレのタンク容量(320L)、仮設トイレ数(10個)、一人一日あたりの尿量を約1.2Lおよび糞量を0.2Lから算出すると、すべての仮設トイレは7日でタンクいっぱい(タンク容量の約94%がふん尿)になり、週1回の汲取が必要となる。しかし、災害時には汲取業者も十分に機能できるとは限らない。実際に、宮城県大崎市の汲取会社に聞いたところ、石巻では、バキュームカーも流されてしまい、通常7台で汲取業を行っているが、現在は、他の地域のバキュームカーを借りて2台で行っている会社もあるそうである。3月20日には、滋賀県から東日本大震災の被災地でトイレの衛生環境を守るため、滋賀県内のし尿収集業者らが被害の大きかった宮城県に向け、バキューム車など20台で出発し、下水道が機能していない被災地でし尿のくみ取り作業にあたるなどの支援もあった。

3. 災害トイレのあり方
3.1 長く使えるトイレ 
 今回の仮設トイレを見れば明らかなように、糞は、どうしても、便器の中心付近に山状に蓄積する。そのため、仮設トイレ(通常320 L)のタンク容量があっても、その半分強ほどしか入らないということが、貯留量を減少させる。また、実際に使用する側としても、おしりをだす所に、糞便の山の頂点がいちばん接近することになるため、衛生的にも問題であり、気分的にも悪い。
 この山を崩す仮設トイレの設計が必要である。バイオトイレの多くは、好気性分解を目的とするため撹拌器がついている。このため、タンク内の糞尿が、ある一部分に高く蓄積する事はない。
 仮設トイレにおいても、バイオトイレのような撹拌システムの導入が、緊急時に長く使えるトイレとなる一工夫だと考える。また、単純に、タンク容量をもう少し大きくすることも必要である。

3.2 汚れないトイレ
 次に、便器が汚れないようにするにはどうしたらいいか?を考えた。
 第一に、小便と大便は、別の場所ですることが必要だと思う。小便は小便用トイレ、大便は大便用トイレである。
 大便用トイレは、水がない場合、通常の和式や洋式トイレでは便器が汚れる。また、掃除も困難である。よって、災害トイレには、生分解性プラスチックの袋を大量にストックしておき、それを便器に広げてそこに大便をして、最後にその袋を閉じてタンクに落とすのがよいと考える。
 この方法であれば、水がなくても便器を汚す事がない。タンク内には、生分解性プラスチックの袋に入った状態で、糞が蓄積するので悪臭の拡散も抑制できる。
 このような考えでつくられているトイレとして、災害用ポータブルトイレ、ラップポンがある。しかし、これも電気を利用しているため、長い避難、多数の避難者の利用には限界がある。
 現在、私は、別のプロジェクトで、生分解性プラスチック袋に生ゴミを投入し、それをメタン発酵する研究を進めるために、生分解性プラスチックの製品会社にお願いして、生分解性プラスチック袋の準備を進めてきた。しかし、現在、製品化された生分解性プラスチック袋は、分解が遅いという問題がある。コンポスト用ゴミ袋としての生分解性プラスチック製品が販売されているが、分解までに約1ヶ月を要する。
 上記の新たなトイレで、たまった糞をどのように利用するか?によって、生分解性プラスチック袋に求められる分解特性が変わってくる。現在、商品化されているものでは、分解が早くて1ヶ月なので、糞をストックするのであれば、十分に利用可能である。
 しかし、私が考えるトイレで糞を分解しながら、エネルギー生産を行う場合には、より分解性の高い生分解性プラスチック袋の開発が必要となる。生分解性プラスチックは、現在、受注生産が主で、採算が合わない製品を試しにつくってもらえるような感じではなかった。このあたりも共同研究ができれば、可能性が大きく広がると考える。

3.3 トイレからエネルギーを!
 さて、トイレでエネルギー回収することが可能であるかを試算した。
糞と尿は分離したトイレを考える。Hottaら(2009)によれば、人糞の含水率は約80 %前後、窒素は乾燥重量あたり70 mg/g-dry,炭素は500 mg/g-dryである。CN比は約7であり、窒素含有率が炭素含有率に比較して多い。人糞をメタン発酵する上で、高い窒素含有率によるアンモニア阻害が生じる可能性がある。仮に、含まれる窒素すべてがアンモニアであるとすると、1人1回あたりの糞量を150 gとすると含水率80 %で、残り20 %が固体30 gとなる。そのうち、窒素含有量は70 mg/g-dryなので、2100 mg/一回分の糞となる。糞150 gを仮に150 mlと見なすと窒素濃度として14000 mg/Lとなってしまうため、アンモニア阻害が起こると考えられる。メタン発酵のアンモニア阻害は、通常、アンモニア濃度約1500 mg/Lより阻害があり、 3000 mg/L以上だと著しい阻害が起こる事が報告されている(McCarty, et al, 1961;Hobson, et al, 1976;Sawayama et al, 2004)。そのため、一度の糞排泄に対して、ぎりぎり著しい阻害が抑制される濃度までの希釈(水をできるだけ節約するため)と考えると、希釈水として4〜5 Lの水が必要である。これは、通常使用しているバケツ(8 L)の半分強の量なので、実際に、災害時にトイレで水を流すときに使用する量になると考えられる。あるいは、これまでもアンモニア阻害の抑制方法としてゼオライトを添加する研究(Tada et al. 2006, 2005)もあるので、災害時用トイレとして、そのようなアンモニア阻害を抑制するものをあらかじめ付加したような設計も必要かもしれない。
 それでは、炭素はどうか?先ほど同様の仮定で糞中の炭素濃度を計算する。一度の糞で15000 mg/一回分の糞となる。単純に糞150 gを仮に150 mlと考えると炭素濃度として100 g/Lとなり、5 Lで希釈すると20 g/Lとなり、メタン発酵を行う上で問題ない濃度になる。
 このときに得られるメタンガス量は、300人の避難者で、炭素の90 %がガス化されるとすると、単純計算で一日あたり7.6 m3のバイオガスを得る事ができる。これはエネルギーとして152 MJになり、発電効率を25 %とした場合、電力変換すると32インチ液晶テレビを70時間つけることが可能であるし、テレビの代わりに夜5時間、電球35個を点すことができる。
 いずれにせよ、水が使える前提の話である。水の代わりに尿を利用すればいいと考える人もいるだろう。しかし、尿は糞に比較してさらに窒素含有率が高いために、メタン発酵の阻害方向に働いてしまう。どのように避難所にある有機源、水をブレンドするか?トイレの下のタンクに、何を引き込んでくるか?そのあたりの策を考える必要がある。
 水がない最悪状態で、尿を利用するか?否か?乾式メタン発酵にするか?など、もう少し考える必要がある。今回は、ざっとした考えを列挙したが、中国では豚の糞で、料理用ガスとして活用し暮らしているところもある。よって、人のトイレからエネルギーをつくる話は、全くの夢物語ではなく、非常に実現性の高い話である。上記にあげた課題をすべて解決するシステムを構築したい。

参考文献
Shinya Hotta, Naoyuki Funamizu(2009) Simulation of accumulated matter from human feces in the sawdust matrix of the composting toilet, Bioresource Technology, 100 , 1310–1314

McCarty, P.L. and McKinney, R.E.(1961)Salt toxicity in anaerobic digestion, J. Water Pollut. Control Fed., 33, 399-415

Hobson, P.N. and Shaw, B. G.(1976) Inhibition of methane production by Methanobacterium formicicum, Water Res., 10, 849-852

Sawayama,S., Tada, C., Tsukahara, K. and Yagishita, T. (2004) Effect of Ammonium addition on methanogenic community in a fluidized bed anaerobic digestion, J. Biosci. Bioeng., 97, 65-70

Tada, C, Yang Y, Hanaoka T., Sonoda A, Ooi K, Sawayama S(2005) Effect of natural zeolite on methane production for anaerobic digestion of ammonium rich organic sludge, Bioresource Technology, 96(4), 459-464

Tada C, Hayahibara, S. Utatsu Y, Sawayama S(2006) Artificial Fe-type zeolite enhances methane production in anaerobic digestion under ammonium-rich conditions, Japan Society of Water Treatment biology, 42(3), 99-106

by okibondg2 | 2011-06-02 21:48 | ECO CREATIVE思考 | Comments(2)  

Commented by akashiahime at 2011-06-03 22:49
トイレの神様がヒットしていましたが
避難所でトイレを清潔に保つのは至難ですね。
人のトイレからエネルギーですか!これが夢物語ではないのですね。
Commented by okibondg2 at 2011-06-04 17:54
そうですね。うまくできるように、少しずつ前進したいです。

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